エロトマニア

   SISIKI

 バックから取り出した合鍵で、彼の部屋に入る。今はまだ仕事中だから部屋は真っ暗だ。
 買ってきた食材を置き。冷蔵庫をチェック。彼の食生活はインスタント中心だから中に入っているのはやっぱり飲み物だけだ。
「やはり私がいないとだめね」
 冷蔵庫に食材を入れながら、知らずに笑みがこぼれた。
 次に私は彼の部屋に向う。ベットの脇には脱ぎ散らかした服があり、机には書類がファイルされ立掛けられている。机の端に写真を見つけた。それを伏せ、服に顔をうずめて息を吸う。胸に広がるかすかな彼の匂いが心地良い。
 部屋の掃除を済ますと。台所に立ち、夕飯の支度をはじめる。
「昨日はカレーのはずだから、ハンバーグが良いかな」
 挽肉をこねながら、私は思いをはせる。とても優しい彼のこと。人当たりもよく誰かを恨み恨まれたりするような人ではない。だからみんな勘違いする。その優しさが自分に向けられた愛だと。
 なれなれしく彼に近づきまるで彼女のように振舞う。どんなに注意をしてもやつらはそれを止めない。
 だから私は思い知らせて来たのだ。彼が愛しているのは私だけだと。
「ふふっ。そう、彼が愛しているのは私だけ。愛していいのは私だけ」
 そう囁きながら強く強く肉をこねる。
 左手に違和感がする。血が出ていた。舐めてみる。やはりするのは鉄の味だ。
 あんな写真を見たからだろう、必要以上に力んでいたようだ。
 私は軽く手を払い料理を再開する。
 予定より遅いが鍵を開ける音がした。彼が帰ってきたのだろう。玄関に向かう。
 そこには彼以外に警察らしき人が二人いた。
 彼の方を見ると何かに怯えているようだ。
「警察の者です。同行願えますか?」
 彼に事情を聞こうとすると警察が立ちはだかり、抗議の声をあげる前に手錠をはめ強引に部屋の外に連れ出した。
 外には写真の女がいた。
「そうか、お前が彼をそそのかしたのか」
 射殺さんばかりに睨む。一瞬肩を震わせ怯えるような表情を見せ、彼がそれを心配している。あの女に掴み掛ろうとするが。警察が邪魔だ。
 またお前らは私から彼を奪おうとする。私と彼の邪魔をする。なぜ彼の隣にお前がいる。我が物顔で彼と私を遠ざける。憎い。何度やつらを駆除しても、やつらは害虫のごとく現れる。何回も、何回も、何回もっ。
 だから私はありったけの恨みを込めて、あの女に向けてこう言った。

「 殺 し て や る 」

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