二時間後

   tenkyo

   1

《起動音》
 アー――
 アー――おはようございます。
《呼出音》
《呼出音》
 アー――本じじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじじ
《呼出音》
《呼出音》
 アー――おは
《呼出音》
《確認音》
 アー――本日も雁首揃えてお集まりになりやがって下さり誠に有難う御座います。
 アー――皆様が本日も存分にお楽しみになられるよう糞虫一同心より願っております。
 アー――それでは抽選を行います。
《呼出音》
《呼出音》
 しばらくお待ちください。
《呼出音》
《確認音》
 アイ・アル・アー・エツィ。
 エツィ・ロップ。
《呼出音》
《決定音》

   2

 アー――。
 お待たせいたしました。
 お客様の当選番号を表示します。

《42B-336-338B - 000:00:01》

 末尾二桁はニトラドゥー値を表しています。
 ニトラドゥー値はイレース度によって加算され、フェニオール数によって変動します。
 当選番号及びニトラドゥー値はいつでも確認することが可能です。
 それでは抽選を終了します。
 お楽しみください。

   3

 映写します。

   1

 ログ・イン画面が切り替わると、画面は白一色の単調なものに変わった。その左端に、音声データへのリンク・アイコンがひとつだけ配置されている。このデータこそが、今回のテスト・プログラムのメインだ。二時間につきひとつずつ、このアイコンが追加されていき、新たな音声データを開くことができる。このプログラムでは、音声データをただ開いて、再生を続けていくというだけのごく簡単なものだ。プログラムは、一週間という期間で行われる。担当者は、いかなる結果であれ、この期間は短くも長くもならないと言った。私はこの部屋で一週間、ただ音声データを再生すればいい。それが一体、いかなるデータの採集に繋がるものなのか私には見当がつかなかったが、それを問うようなことはしなかった。これまでに参加したどのプログラムでも、そういった質問に答える担当者は一人もいなかったからだ。
 私はひとつめの音声データを再生した。

   2

【日誌1】
 ――あー、私はセイム。あー、私は、エイフェックス・ストリートで理髪師をしている。……いや、嘘だ、はは。本当は、スクエアの小学校で国語の先生を……、違うぞ、俺は何を言おうとしている? 冗談だ、冗談だぞ。はは、私は人が死ぬところを見るのが仕事だ。また、産婆でもある。そして、私は技術者だ。主な作品はトリー、エイ・エイ、シナー、ハスティー・ブーム・アラート、そしてサイオンだ。にしてもここはヒマだな、何か食べたいが……、次は二時間後か。

   3

 その音声データは五分足らずで終わった。次のデータが配信される二時間後まで、私はやることがない。私は部屋の中を見回した。私には、ごく一般的な市民の部屋が用意された。平均的なキッチン、平均的な生活空間。テレビはあるが、ケーブルが根元から切断されているので電源はつかない。そして、ベッドは置かれていない。それは、事前説明によって聞かされていたので、私はなんとも思わなかった。私が座るのは革張りのリクライニング・チェアだ。ベッドの代わりに、睡眠はここですることになるだろう。クラシックなカラーと感触は、見た目通りの快適さをもたらす。部屋の隅には縦長のオープン・ラックが備え付けられており、そこには、非常にハイになってから死に至る薬物、絶望の底に突き落とされてから死に至る薬物、感情を持つ余裕すらなく即死できる薬物、また最も古典的な、ナイフにロープなど、豊富な自殺の手段が用意されている。それも、事前説明によって聞かされていたので、私はなんとも思わなかった。外に出る手段はないので、私は、新たな音声データがアンロックされるまで、その部屋でただ待った。そして二時間ごとに解放される音声データを、ただ再生した。

   1

【日誌2】
 ――あー、私はセイム。あー、私は今、ランブリック・ポートリーにあるカフェの経営を……、もう、いいか、この話は。あー、私は本質的に技術者だが、人が死ぬところを見るのが仕事だ。今となっては。まあ、いい。まあ、いい。昨日は三人死んだ。いいか、言うぞ、166Dでドミニクが、318Dでアハトマが、221Fでチェンドロが死んだ。……いや、違うぞ、ドミニクが死んだのは先週じゃなかったか? なら、昨日死んだ三人はこうだ、レンブロ、エニック、そしてドミニクの三人だ。……何だ、なにかがおかしいぞ。仕方ない、仕方ないんだ、奴らは独り言が多すぎる……。

   2

【日誌5】
 ――あー、私はセイム。今日も彼らは非常に元気だ。たった今、右端のモニタと左端のモニタで、二人の男が首を吊って死んだ。こんな偶然があるかね? ヒュウ! 私は思わず手を叩いたよ。右端の男は西部で畑を愛でるのが趣味だったそうだ。左端の男は、第二地区でバーなどを営んでいたようだよ。これまで一切関わりを持たなかったはずの彼らは、同じタイミングで死に至ったことによって、死後の世界では幸せに結ばれることだろう。幸福のゲイ・パレードだ。ああ、モニタが少し静かになった。久しぶりに眠れるかもしれない。

   3

 五つめのデータが終了したとき、私は身体を伸ばして溜息をついた。もう五つめだ。十時間もこうしているというわけだ。私が再びディスプレイに向き直ったとき、そこには変化が起こっていた。ウィンドウが浮かび上がり、文章が表示されている。
「彼は狂人ですか?」
 イエス・オア・ノウを問われたので、私はノウと答えた。イエスと答えたら、音声データの更新が止まるような気がしたからだ。プログラムは、まだ始まったばかりだ。

   1

《42B-336-338B - 010:09:03》

 アー――エツィ・オア・ネットを選択することができます。
 アー――フローは待機中。フェニオール数は最低値です。
 アー――ネットが選択されました。後悔のなきよう。
 アー――後悔のなきよう。

   2

【日誌15】
 ――あー、私は……、セイムだ。昨日は眠れなかった。昨日もか。その前もだな。眠れないのは苦痛だが、眠るのもまた恐ろしいことだ。モニタの音声は止められない。眠りに落ちている間も時折聞こえてくる彼らの独り言が私に流れ込み、それが私の人生なのかと錯覚が起き始める。私はここではあらゆるものである可能性がある。まずそれを打ち消すことから考えなければならない。私は誰でもなく、私はどこにもいない……。昨日はまた二人が自ら命を断ち、今日は朝から一人……、いや、この部屋ではどこからどこまでが一日なのか最早見当もつかない。日誌だ。この日誌だけが私の昼夜を分かつ。まあ、夜が来ても眠れず、朝が来ようと目覚めることもないが。

   3

【日誌29】
 ――あー、私は……、私はセイム。哀れな管理者だ。私は、人が死ぬところを見るのが仕事だ。だが、こんなはずじゃなかった。私はとっくの昔に、この席を離れているはずだった。この席は、ライフハックの一手順として組み込まれるはずだった席だ。トリー、エイ・エイ、シナー、ハスティー・ブーム・アラート、そしてサイオンに続く全てのモデルたちが、ここに座り、多くを学んでいくはずだった。モニタされるのも、こんなに、死んでいくものたちだけではなかった。もっと、もっと多くの……、彩りある……。だが、それももうお終いだ。サイオンはもういない。彼女はきっともう既に、ミンチ、のちナゲットだ。いや……、肉片だけでも残っているならどんなに幸せなことか。私は所詮、哀れな管理者だ。

   1

【日誌37】
 ――あー……。私がここに来てから既に六人のジェームスが死んでいる。そして今、モニタに映っているジェームスは全部で三人だ。誰が一番先に死ぬだろう。花屋のジェームスは一体どれだったか……。右上の彼だ。確かあとは、ホテルの従業員、そして酒屋……。酒屋の彼は随分と独り言が多い。恐らく、即死の薬物を選ぶだろう。たいてい、死に方の選択には傾向がある。日を追うごとに独り言が増えていくタイプは、たいてい即死か、気分が落ち込む薬物を選ぶ。逆に全く平気そうな素振りをしているタイプは、必ずハイになってから死ぬ薬物を選ぶ。ロープで死ぬのは特殊なタイプだ。ナイフを何度も手に取るタイプがいるが、これはたいてい死ぬまでには至らない。こんな分析をするぐらいしか、ここには娯楽がない。これは狂っているか? ここには私一人しかいないのでその真偽は不明だ。もし私が正気であれば今すぐに処置を取るだろうが、ここには薬物の用意がない。この部屋にはなにもない。私の身体にも。メガネのツルで首筋を突き刺して死ぬこともできない。私は自分の視力が好調であることを呪う。

   2

「彼は狂人ですか?」
 質問が表示されたので、私はノウと答えた。【日誌5】以降、全てのデータの終了後に、その質問は現れるようになった。私は毎回ノウを選択した。日誌のナンバーは既に40に近い。この部屋に来てから、もうすぐ80時間が経過しようとしている。三日以上。【日誌20】以降、データがアンロックされるたび、けたたましいビープ音が鳴り出すようになった。どれだけ深い眠りに落ちようと、セイムが私のことを二時間おきに叩き起こす。頭がうまく働かない。
 この部屋には何もない。セイムの言葉を考えることより魅力的な娯楽は、何も。私は彼の言動に疑問を抱き始めていた。モニタ……、死に行く者たち……、薬物……。彼が話すもの、彼が見ているものは、まるで私がいまいるこの部屋のことようだ。いま、私以外にも同じプログラムを進行している者が? そして、セイムはそれを見ている? 私は目を閉じた。これは音声データだ。ライヴではない。彼が話すものと、私がいるこの部屋がリンクしていることには、プログラムの目的に関する何らかの理由があるのだろう。だが、私にそれを考える義務はない。思考がぼんやりして、はっきりしない……、少し、眠ろう。

   3

【日誌50】
 ――ハッ、ハ。私はセイムだ。この日誌は既に50を超えたらしい。この記念すべきチャプターのために、私に新たな娯楽が提供されたようだ。エツィ・オア・ネット! モニタに映るきみたちの誰かを選び、非常にハイな電気ショックを授けることができるのだそうだよ。きみたちが深く腰掛けるその豪勢な椅子の中には、全てゴッド・ブレスが織り込み済みらしい。早速、エツィしてみようか。誰がいいと思うね? 一番独り言がやかましいそこのオマエか? 一言も喋らず見ていて何とも面白くもないそっちのオマエか? いや、どうせなら無作為であればあるほどいい。そこのきみにしよう。黒いシャツ、短髪、寝不足でだらしなく口を開けたままのきみだ。じゃあ、エツィするぞ。さようなら。きみの人生はどれだけ不幸だったかな? なに、祝福も救済も無作為で唐突なものだよ。向こう側で幸福のゲイ・パレードに加わるといい。ではな。チリンガ・リーン!

   1

 私は椅子から飛び上がった。彼が挙げた人物の特徴が、いまの私そのものだったからだ。立ち上がる際にデスク上のコーヒーカップを倒し、中身が床にぶちまけられた。心臓を吐き出しそうな思いだ。立ち上がれたところを見ると、私は死んでいない。私は椅子を見た。最初から、この椅子だけが部屋から浮いているような感じは確かにしていた。私は息を整え、モニタを見た。音声は沈黙していたが、データはまだ終了していなかった。私は気づいた。これはデータの沈黙じゃなく、セイムの故意の沈黙だ。すると、彼が息を吹き漏らす音が聞こえた。

   2

《42B-336-338B - 100:15:50》

 アー――エツィ・オア・ネットを選択することができます。
 アー――フローは待機中。フェニオール数は標準値です。
 アー――ネットが選択されました。後悔のなきよう。
 アー――後悔のなきよう。

   3

【日誌50】
 ――ハッ、ハハ! ハハハハハハハ。何を、ハハ、何を驚いているんだ。自分のことだと思ったか? それは非常に愉快だ。ハハハ。私は管理者だ。ライフハックに関わった経験を持つ、単なる技術者だ。主な作品はトリー、エイ・エイ、シナー、ハスティー・ブーム・アラート、そしてサイオンだ。私が誰かをエツィする権利など、どこにもない。ハハ。エツィ。今、一人死んだぞ。私ときみたちに、何ら差異もないわけだ。エツィ。ハハ、飛び上がって死んだな。ただひとつ、部屋の隅と頭の中に、いくつのビッグ・ブラザーを抱えているかという問題を除いては。エツィ。これで三人死んだ。これは愉快だ。ハハ、非常に、愉快……。

   1

【日誌50】はそこで終了した。データの再生は終わっている。呼吸の乱れがおさまらない。私は荒い呼吸のまま、それまで座っていたリクライニング・チェアを蹴り倒した。目を閉じて、自分を落ち着かせる……、これは、ライヴではない。ただの音声データ、そのはずだ。そのはずだが……、私は確かに、自分に接続された恐怖を感じていた。よりリアルな……、違う、何の関係もないはずだ。私とは……。全て、過去にあったこと、セイムは過去の人間、そのはずだ。恐怖することはない、何もない……。
「彼は狂人ですか?」
 モニタには例の質問が表示されていた。私はためらいなくイエスを選択した。すると画面が切り替わり、新たな文章が表示された。
「彼の活動を停止しますか?」
 エツィ・オア・ネットが問われた。エツィ? 彼も言っていた言葉だ。エツィする……、とは恐らく、活動を停止させることを肯定するという意味だ。私は深く考えた。セイム……、この奇妙な男の存在を、本当に私が操作できるのなら……、私はどうするべきだ。その質問文はそれからずっと、画面の端に表示されたままになった。活動を停止? 私はエツィを選択することで、セイムを殺すのか? いや……、これは音声データ、過去のもの、そのはずだ。頭が、うまく働かない……。私は一体、どうすれば……。

   2

【日誌56】
 ハロー、私はセイム。私に与えられた新しいオモチャは好調だ。私が不快に思った瞬間、それをエツィできるというのは、あまりに快適すぎる状態だ。そこで、私は考えたが、いっそ、私の最大の快適のために、きみらを一旦すべてエツィするというのはどうだろう。エツィ、エツィ、エツィ、おっとすまん、つい手がな。ハハハ、すまんな、じゃあ、右から順番にエツィしていくぞ。エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、ハハ、元気そうだな。エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、うんざりだ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、お前らにはもううんざりだ! エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、ハハ、楽しそうだな……、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ、エツィ……、

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《42B-336-338B - 112:17:79》

 アー――エツィ・オア・ネットを選択することができます。
 アー――フローは待機中。フェニオール数は最高値です。
 アー――エツィが選択されました。後悔のなきよう。
 アー――後悔のなきよう。

   1

 私は即座にエツィを選択した。「彼の活動を停止しますか?」という質問に対してだ。エツィ、エツィ、エツィを何度も選択する。エツィ、エツィ、エツィ、ディスプレイからはセイムの声が延々と続いている。エツィ、エツィ、私は何度もエツィを選択した。二分経つが、セイムの活動は停止されない。私はディスプレイを蹴り落とし、キーボードで叩き割った。エツィ、エツィ、エツィ、だが、セイムの声はまだ続いている。私は両耳を塞いで部屋の隅に屈んだ。日誌56、今は何時間だ――? 技術者は何と言っていた……? いまは何時間だ……?
 やがて、セイムのエツィは鳴り止んだ。

   2

《42B-336-338B - 112:17:79》

 アー――レコードが確定しました。
アー――フローは凍結しました。
 アー――座して死をお待ちください。

   3

 それから34時間経つが、セイムの声が戻ってくることはなかった。私の「エツィ」で、彼は活動を停止したらしい。それまで、この部屋にあった唯一の音声だったセイムは失われた。二時間ごとにビープ音が鳴り響くこともなくなり、私は快適な睡眠を取り戻した。だが、プロジェクトの唯一の目標であったものが失われ、私は俄かに不安に襲われた。
 いつまでここに閉じ込められるんだ?
 技術者は何と言っていたか……、もう思い出せない。
 あと何時間? 私は忘れられている? プロジェクトは失敗か? 私はどうなる?
 まさか、ずっとこのまま?

   1

 それから十時間経った。
 セイムの声は戻ってくることはなく、私は部屋に孤独だ。
 私はふと、思いついた。そうだ、部屋に備え付けられた自殺の手段は……。

   2

 それからさらに十時間が経った。
 セイムはついに、戻ってくることはなかった。ハハハ。私は見放されたことを悟った。ここにはもう誰も来ない。何もないだろう。今は何時間だ? もうどうだっていいことだ。ハハハ。私は部屋中のものを壊して回った。本のない本棚を叩き壊し、部屋の中央に置いた。つながっていないテレビを叩き壊し、部屋の中央に置いた。壊したディスプレイももう一度叩き壊し、部屋の中央に置いた。三つを順番にまた叩き壊す。部屋の隅にある薬物の棚だけは、一切触れずに残しておく。誰にも見られていないことだ。何をしても。誰かここを見ていたのか? セイム? ヤツの存在は一体? 音声データ? 何のことだ? エツィするか否かだ、私は狂人ではない。監視されていた……、私はセイムに監視されていた。セイムもまた誰かに監視されていたか? 監視をする者ですら監視を受ける。ビッグ・ブラザー、今はその意味が良く解る。音声データ? 何のこと? 違う……。誰に監視されていた? 誰に監視されている? セイム以外の、誰かに私は監視を受けていた気がする……。私はそもそもどうやってここに入った? ここはどこだ? 今は何時だ? あの部屋の隅にある棚は何だ? 薬物だ。どれにしよう。
 これだな。

   3

「ハッハー!」
 俺はPCをひっくり返して叫んだ。終わりだ。あー、終わり。
 七千万、それだけ突っ込んだ。累計じゃねえぞ、このスクリーンだけの数字だ! いけると思った? 勝負に出た? 寝言だ! どのみちこのスクリーンで全額回収できなきゃ終わりだったんだ! それが、単に予想通りに終わったってだけの話だ! しかし一瞬でも、勝ったと思ったのは嘘じゃあねえけどな! フェニオールは最高値! シナリオ的にエツィのタイミングも完璧! 時間も申し分なかった! 勝てるスクリーンだった! 勝てば俺の人生で最大のプロジェクトだ! 問題はあのチキン野郎がアタマもチキン並みだったってことぐらいだ! 168時間! 最初に言われたはずだろ! ボケっとしたマヌケ面晒しやがって! あと二時間! あと二時間で終わってたってのに! 二時間早まって手前のハラより先に首括りやがって! そのまま俺の首まで一緒に括りやがった! 終わりだ、終わり。モニタに映る映像はもうなにもない。あー、これから俺はどうすりゃいいんだ? そういや、俺は何て言われたんだっけかな。ここに入るとき、何か注意点があったはずだが……。俺は、いつからここにいたんだっけな? ま、いいや。終わりだ終わり。俺は、PCモニタから、生活感のまるで感じられない簡素な室内へ視線を移す。
 そして俺は、部屋の隅にある薬物のラックに目をやった。

 選ぶのはもちろん、
 ハイになってから死ぬ薬物だ。

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